勲章を知る～肩章（けんしょう）～

軍服肩上で存在感示す実用品

肩章とは制服の肩に付けられる標識で、官職や階級を示します。元は背嚢の固定具等の軍服装備が起源とされ、のちに標識の役割が付加されました。近代以降、欧米で国家組織の制服等に利用されて発達し、日本でも明治期に導入され使用と改変が続けられます。 制服の肩上で独特の存在感を示す実用装備、肩章。ここでは、明治から昭和の敗戦まで使用された旧大日本帝国陸海軍の各種軍用肩章について解説します。 　旧陸海軍の軍服には大礼服（たいれいふく。正装・正服・正衣）・礼服（礼装）・通常礼服（通常礼装）・軍服（軍装・軍衣）・略服（略装・略衣）・夏服（夏衣）等の種類があり、肩章もそれに合わせて用意されました。大礼服は最上儀礼の宮中参賀等、礼装は宮中晩餐会等、通常礼装は宮中午餐会等、軍装は観兵式・演習等、略装はそれ以外で用いられます。 肩章が付く軍服の着用対象者は、陸軍では憲兵・屯田兵を含む兵科将兵のほか、軍医・薬剤・獣医・法務・経理（監督・軍吏）・軍楽等の各部将兵に、陸軍諸学校生・軍属等で、海軍では兵・海兵・航空（飛行）・整備・機関・工作（船匠）・法務・主計・技術（造船・造兵・造機・水路）・軍医・衛生（看護）・薬剤・歯科医・軍楽等の各部科に、海軍予備員・海軍諸学校生・軍属・傭人等々、旧陸海軍内の広範に及びました。

陸軍でのドイツ式肩章の採用（明治19年制）

旧陸軍軍服は、明治4（1871）年の陸軍創設から始まりますが、その肩章は同19年に採用されます。軍制と服制がフランス式からドイツ式へと転換される際での登場でした。 将校用の正衣には丸打金線紐を鎖状に組んだものが付けられ、組数や銀の星章数で階級が表されます。兵科と軍楽部以外の各部将校用は銀線紐との交互組みがなされ、星章は金色。また衛生部・獣医部・軍楽部用は星章の1つが各独自徽章に代えられます（同45年に全て星章化）。また准士官や同相当官と二等軍楽長用は白茶絹糸紐が用いられました。 下士以下の正衣・軍衣肩章は、部科毎の定色の絨（じゅう）地に連隊番号や大隊番号が白絨で記されます。また、看護長と看馬長用は深緑絨に白絨の蛇杖や花葉、軍楽手等には茜絨に紺青絨の玉縁が付き、騎兵用は黄毛糸組紐（近衛は緋毛）の肩章が用いられました。

海軍の華麗な房付き英式肩章（8年制）

旧海軍では明治3年に軍服が定められ、同6年に肩章が採用されます（公布は同8年）。 将校用大礼服（正衣）の正肩章は、イギリス式の金台座に金モールの房が付くエポーレット型と呼ばれる華麗なもので、赤い桐章と銀の二重山型線や銀の桜章が付き、桜の数や房の有無で階級が表現され、房は将官が最も長く、太さもありました。また、相当官用は全周が銀色で、赤い桐章と金の小桜章が付き、将校同様の階級表現がなされました。これらはのちに部分改変もされますが、敗戦まで存続する基本形となります。

軍装のカーキ色化への対応（陸軍38年制）

明治21年、陸軍では憲兵の肩章が緋絨から茜絨に変更され、翌年には定色絨の周囲に黒白糸の縁が付く各兵科一年志願兵用の肩章も制定されました。また、同24年には兵科将校の正肩章から星章を除いた形態の理事服制が定められます。そして日露戦争中の同38年には戦地で目立たないカーキ色の軍衣が兵科・将兵の区別なく採用され、肩上に縦付けする板状緋絨に金線と金属金星章（相当官は銀線・銀星）が付く将校用肩章が制定されました（同34年に横付け茶褐絨地の先行試用版あり）。下士以下も同様となりますが、兵卒は黄絨製の星章、一年志願兵（昭和3（1928）年廃止）は赤白糸の縁が付けられました。

将校・准士官夏衣の肩章採用（海軍33年制）

海軍では、明治16年に緋羅紗（ひらしゃ）地に金房付きの扇型肩当てを持つ楽長正肩章が制定され、四角い肩当てを持つ同41年制定の監獄長正肩章と並ぶ特異なものとなります。 同33年には将校用白リネン夏衣の階級章が袖章（そでしょう）から肩章に変更。それは紺羅紗の板状で、錨柄ボタンと金線が付けられ、線幅や数、銀色桜章の数で階級が示され、准士官と相当官用の同様肩章（相当官は定色線を付加）も制定されました。 同37年には各肩章の桜章が大きくなり、桜に代わり銀の予備員徽章が付く予備士官肩章も制定されます。また日露戦争中には占領地行政等に関わる軍属文官用の、紺羅紗に二重山型銀線や金線・銀線の縁が付く肩章が制定されました。同41年には監獄長・看守長・看守肩章が定められ、紺羅紗に桜ボタンや二重山型銀線と金銀縁や監獄章銀繍が付けられます。そして、同43年には同生地に赤線の縁と二重山型銀線が付く警査用も制定されました。

大正・昭和の陸軍肩章

大正6（1917）年、陸軍に准尉が設けられ（同9年廃止）、少尉の星章に円座が付く形式の正肩章と同章入りの軍衣肩章が定められ、同11年には軍衣肩章が相当官共々、金線・金星に統一されます。昭和7年には軍楽部の夏正衣・兵正衣肩章が制定。緋絨地に金線や金周線の有無、金星の数で階級が示されました。同12年には准士官が准尉に改称され、翌13年には正肩章も全て金線・銀星に統一されます。また、小型の正肩章を軍衣に装着して通常礼装とすることも制定。しかし、軍衣肩章は徽章化され廃止されました。 下士以下の軍衣肩章も廃されますが、儀礼・外出用の横型肩章が定められます。茶褐の絨か布地に、桜のボタンや金の星章と下士官用の金線が付きました。また諸学校生徒や候補生・見習士官・軍属等も昭和初期より同生地による独自仕立ての肩章が定められました。

大正・昭和の海軍肩章と終焉

海軍では、大正6年に青島守備軍民政部職員用の、黒羅紗に金線と金の葉付き桜章が付く肩章、同8年に同様の椰子葉付き桜章が付く南洋群島在勤文官用肩章が定められます。同年、相当官の正肩章が将校同様となり、昭和2年には桜章の径や桐章の種別、房数も統一されました。そして、同5年には銀繍徽章が付く予備士官用正肩章が制定されます。 大正8年、予備士官の軍衣肩章に大佐が追加されて徽章も変更され、翌年には准士官と同式の特務士官用軍衣肩章や、黒羅紗に金繍錨が入る候補生・諸学校生用夏衣肩章が制定されました。昭和6年には二重山型に代わり金繍の桜が付く軍属文官の夏服肩章も制定。また、将校と相当官の軍衣肩章は同17年に小型化し、金線や識別線の幅も変更されます。19年には褐青（かっせい）色の地に二重山型線や桜章が付く雇員・傭人用肩章も制定。 そして昭和20年。敗戦による旧陸海軍の解体と共に、肩章も遂にその役割を終えました。