軍装品を知る～海軍軍服～

軍装品の中核、旧海軍軍服

海軍軍服とは海軍の構成員（軍人）の制服で、特に近代以降のものを指します。日本のそれは、幕府や各藩が近代洋風軍備に刺激されて幕末導入したものが起源とされ、明治以降は国軍の装備として統一され、敗戦で旧軍が消滅するまで使用と改変が続けられました。 　旧海軍の軍服には、大礼服（たいれいふく）・礼服・通常礼服・軍服・略服・夏服等の形態がありました。「大礼服（正服・正装）」は、宮中参賀・紀元節・天長節・明治節・遥拝式・参内拝謁・勲章拝受・観艦式・靖国参拝・海軍葬喪主・実家の冠婚葬祭等に、「礼服（礼装）」は、宮中晩餐会・親任式・外国艦訪問等に、「通常礼服（通常礼装）」は宮中午餐会・観桜観菊・叙任叙勲・行幸参集・離任式・勲章授与式・進水式・海軍葬会葬・親族の冠婚葬祭等、「軍服（軍装）」は通常勤務、「略服（略装）」はそれ以外で用いられました。 　その着用対象者は、兵・海兵・航空（飛行）・整備・機関・工作（船匠）・法務・主計・技術（造船・造兵・造機・水路）・軍医・衛生（看護）・薬剤・歯科医・軍楽等の各部科に、海兵団・海軍予備員・海軍諸学校生・軍属・傭人等の旧海軍広範に及びました。 なお、軍装品の中核である海軍軍服には、軍帽・水兵帽・航空帽・鉄帽・防暑帽・防蚊頭巾・軍靴・脚絆・外套・雨衣・マント・防水被服・防暑防寒被服・防弾被服・航空衣・降下衣・自転車服・作業衣・ガス衣・救命袗（きゅうめいしん）・刀・剣のほか、徽章・肩章・襟章・胸章・側章・袖章（そでしょう）・臂章（ひしょう）・前立（まえたて）・飾緒・飾帯・刀帯等も含まれますが、ここでは衣服、即ち上下の軍衣について解説します。

大日本帝国海軍軍服のはじまり（明治3年～4年制）

明治3（1870）年、近代海軍の設立を目指した明治政府は、前年の兵部省海軍部の設置を踏まえ、初の「海軍服制」を公布しました。それはイギリス海軍に倣ったもので、衣・帽・袴（ズボン）共に紺羅紗（ラシャ）を用い、2列9ボタンのダブル長丈の正衣と、1列5ボタンのシングル短丈の略衣に袖章や襟章が付きましたが、紙上案に留まったようです。 同4年には夏略衣が追加され、正衣（正装）・常衣（礼装）・略衣（軍装）の区別も制定。将校正衣は紺羅紗のまま短胴服（チョッキ）と袴が白亜麻布に、略衣は上衣が黒アルパカで他は正衣と同じ、曹長以下も同様となります。また、陸軍服制同様の文官（軍医等の士官）正衣と略衣も制定され、袖章等の輪模様は「日の丸」と呼ばれた円形となりました。

英式服制整う8年制

明治5年、中士（准士官以下）の2列7ボタンの長丈正衣と同様短丈常衣が制定され、下士卒は2列8ボタンの短丈正衣と既に使用されていた水兵服（セーラー服）の常衣が定められます。また同年には海軍省が発足し、英国に倣った官等・管制も定められました。 そして、同6年に「海軍武官服制」「海軍下士官以下服制」「海軍文官服制」「海兵隊服制」が公布され海軍軍服は一通り整います（同8年布告）。武官（職業軍人）の大礼服は2列10ボタンで房肩章付きの立襟燕尾服、礼服は折襟燕尾服同8ボタン、常服は同8ボタンの折襟長丈衣、略服は同７ボタンの折襟短上衣で全て紺羅紗製。上級下士は将校に準じた礼服、下級下士以下は2列6ボタンの羅紗製短上衣の礼服とセーラー服型の常服を用いました。 文官の大礼服は1列10ボタンの立襟燕尾服で、礼服も同10ボタン、常服は折襟同8ボタンの長丈衣、略服は同７ボタンの短上衣で、同じく全て紺羅紗が用いられました。 海兵隊の将校大礼服は赤や黄の縁取りがある1列10ボタンの腰丈上衣で、常服も同型で8ボタン、略服は黒紐が４か5段付いた「肋骨式」で、全て紺羅紗製でした。同下士卒の礼服と常服は1列7ボタンの紺羅紗の短上衣、略服は同様紺サージ製の短丈衣に。また海兵隊楽隊には緋羅紗上衣等も使われるなど、旧陸海軍史上で最も華麗な服制となりました。

質実追求の16年制と脱英化

明治16（1883）年、質素と便宜、英式服制の取捨折衷を旨とした海軍軍服の服制改正が行われます。ただ、形はほぼ変わらず、正帽や肩章等の変更、将校用の大礼服の裾線除去にホック掛け長衣略服や短剣等が制定されました。また海兵隊廃止後に軍楽科となった楽隊の緋羅紗地が紺羅紗となり（のち復活）、水兵帽の帯に艦名等が記されます。 そして同20年には下士以下の礼服が廃され、常服も改正、夏略帽のヘルメットと紐飾付きのマントが加えられました。将校の略服（同23年常服と改称）がアメリカ海軍と似た全周蛇腹組紐が付いたフック掛け折襟長衣（のち立襟）となり、多少改変されながらも終戦まで用いられることとなります。

日清・日露戦争での近代戦経る

明治27（1894）年、日清戦争が起こり旧海軍は初の近代戦を経験します。戦後の29年の改正では、服の呼び名が正服・礼服・通常軍服・夏服となりますが、その他はわずかな変更に止まりました。32年には官制の独自化に伴い、新設各科の総監服制も発表されます。 そして明治37（1904）年に日露戦争が勃発。民間船員の動員を規定した海軍予備員制度が作られ、将校・下士同様の服制が定められました。また2等下士が1等同様の下士服着用となり、旅順攻撃等で活躍した陸戦隊にカーキ色の保護色被服が支給されます。戦後の同44年には下士卒の臂章変更や水兵服の水兵（卒）専用化、三等下士の下士服着用等の改正があり、下士以下の服装が礼服・軍服・夏服の3種に単純化されました。

集大成的改正、大正3年制

第1次世界大戦が起こる大正3（1914）年には海軍軍服の集大成的改正が行われます。水兵服の襟飾とその留紐が正式に定まり、臂章の左右位置が変更、麦わらや棕櫚製の夏略帽が規定から外される等され、第一種軍装（冬服）・第二種軍装（夏服）の語が現れました。 昭和3（1928）年には、大陸に治安派遣された陸戦隊の制服が褐色から退色の少ない褐青色（かっせいしょく）となり、同8年には将校・下士は折襟背広型、兵（卒）はジャンパー型、准士官以上は褐青色のワイシャツにネクタイという近代的形式が制定されました。

敗戦による旧海軍軍服の終焉

大東亜戦争が始まる昭和16（1941）年には防諜の為、帽帯の艦名等が廃されます。戦時中も臂章等の変更が行われ、同18年には南方用に将校以下同一の4ボタン開襟式の淡青色略衣が制定されました。翌年にはそれに似た第三種軍装が定められ、他種に代えての着用が指示されます。そして昭和20年の敗戦を迎え、旧海軍軍服はその役割を終えたのです。