勲章を知る～旭日章（きょくじつしょう）～

旭日章（きょくじつしょう）とは、日本の勲章の一つで、明治初期（19世紀後半）に西洋の叙勲制度を参考にして定められた日本初の国定勲章です。国家や公共への功労者を表彰する栄典制度の一つとして始められ、敗戦後の危機や制度改正を経て、21世紀となった今日まで運用されています。なお、平成の改正前は9等、改正後は6種の区別を有します。 　「旭日」とは朝日のことで、古代「日出る国（ひいずるくに）」とされた日本の象徴、日の丸との関連が窺われています。日輪とそこから放射される光が表された旭日章の意匠は、旧軍・警察等の帽章や軍旗にも採用された「日章」に類するものといえます。 　勲章は中世ヨーロッパで考案されたものですが、栄典制度としてのそれは近代国家でも有用だった為、列強を中心に広く世界で利用されていました。日本では薩摩藩が最初に製作し、ついで江戸幕府も試みましたが、近代国家の早期確立を目指す明治政府も、外交儀礼や社会秩序維持に有用なその導入を図ります。そして誕生したのがこの旭日勲章でした。

旭日勲章の種類と序列

旭日章は制定当初、一等を最高位とする8等級があり、「勲一等旭日章」のようにそれぞれ「勲〇等」を付けて呼ばれていました。間もなく旭日章の上位となる大勲位菊花大綬章（だいくんいきくかだいじゅしょう）が制定され、旭日章は首位を譲りますが、ついで各等級の後に固有名が付けられ、一等の勲一等旭日大綬章（だいじゅしょう）を始め、勲二等旭日重光章（じゅうこうしょう）・勲三等旭日中綬章（ちゅうじゅしょう）・勲四等旭日小綬章（しょうじゅしょう）・勲五等双光旭日章（そうこうきょくじつしょう）・勲六等単光旭日章（たんこうきょくじつしょう）・勲七等青色桐葉章（せいしょくとうようしょう）・勲八等白色桐葉章（はくしょくとうようしょう）と改称されます。そして、後に別格的最上位の勲一等旭日桐花大綬章（とうかだいじゅしょう。後の桐花大綬章）も追加。以降その名で運用されますが、平成の改正で等級と下位2種の廃止に桐花章が分離し、旧一等から順に、旭日大綬章・旭日重光章・旭日中綬章・旭日小綬章・旭日双光章・旭日単光章の6種となりました。また、日本の勲章の中での勲一等旭日章の序列は、最高位の「大勲位菊花章頸飾（けいしょく）」、次位の「大勲位菊花大綬章」、3位の「勲一等旭日桐花大綬章」、4位の「功一級金鵄勲章（きんしくんしょう）」に次ぐ、第5位とされ、旧軍向けの金鵄章が廃止された戦後に4位となります。

授与対象と叙勲の種類

授与の対象者は、国や公共への勲功がある者とされましたが、実際は政府での要職経験者が上位を占めるなど、官民格差がありました。戦後はその傾向が是正されつつありますが、基本的に変わりません。ただ、平成の改正で女性の受章が可能となりました。 また、現在勲章が与えられる時機・種類には、定期的な「春秋叙勲」を始め、88歳以上の対象者に速やかに対処する為の「高齢者叙勲」や物故者への「死亡叙勲」、外国人への儀礼・功績表彰用の「外国人叙勲」、著しい危険業務に就いた公務経験者への「危険業務従事者叙勲」、災害や治安事案での貢献者や公務殉職者等への「緊急叙勲」があります。

旭日章の意匠と内訳

貴金属等が用いられる勲章は美術工芸品的美しさを有しますが、旭日章も金銀や七宝（しっぽう）等で彩られ、その造りも大変良いものでした。 勲章の本体である章（しょう）の一等から六等までの意匠は、寸法以外基本的に同じで、中心に日章を模した七宝かガラスの赤透明の円があり、その周囲から32本の白七宝入りの旭光が八方に放射する変形八角形となっています。四等までは各部の輪郭が金色で、五等は旭光の一部が銀色、六等は全て銀色で、二等のみ底部に銀色七宝なしの旭光が重なる「重光」型となっています。章の直径は二等が91mmで最大、次に一等の76mm、三等55mm、四等以下の45mmです。なお章上部には、葉が緑、花が紫の七宝が施された桐花紋型金具（五等以上五七桐、以下五三桐。六等以下銀縁）の紐（ちゅう）が付き、その上の環（かん）により吊り布の綬（じゅ）と接続されます（章と紐の一体型もあり）。

七等と八等の意匠は紐が章となった省略型で、八等は七宝がない銀地、直径は共に30mmです。正服用の章「正章」等に用いられる綬は、紅白意匠を有する帯状織物で、光により表情を変える水紋（すいもん）と呼ばれる美しい模様も施されています。一等には肩掛け型の大綬、三等に首掛け型の中綬、四等以下には左胸取付用小型の小綬が付属。

桐花章の意匠は、二等と似た重光型で、輪郭は金、底部の旭光が縦横四方の放射で、その合間に紫七宝の桐花が環状に連なります。上層の旭光は赤七宝に輪郭は銀で、章の大きさは76mmです。 なお、全等級の意匠や造りには年代や製造元等の関係による細かな差異があります。

付属品は桐花章には正章と同じ「副章」、一等には二等正章（無綬直付け式）の副章、二等には三等正章の副章のほか、全等級に綬と同素材で作られた小円状等の「略綬（りゃくじゅ）」に、それらが収まる黒漆塗や黒革・紙革貼の木箱、更に氏名等の記載や精緻な勲章絵柄が施された「勲記（くんき）」が用意され、天皇の名の下に授与されました。そして受章者は規程に則り勲章と副章を正服等に、略綬を略服や平服等で佩用（はいよう）します。

旭日章の歴史

明治政府成立後、外交儀礼上等での勲章の重要性が認識されて研究が行なわれ、明治8（1875）年に旭日章8等が初制定されました。当初は賞牌、翌年には勲章と改名され、更に上級の大勲位菊花大綬章が定められます。同21年には女性対象の宝冠章や公職者対象の瑞宝章と共に旭日章上級の旭日桐花大綬章や最高位の大勲位菊花章頸飾が制定されました。 しかし、昭和20（1945）年の敗戦後は、新憲法の施行と共に軍向けの金鵄勲章が廃され、外国人への叙勲と文化勲章以外の生存者叙勲も停止されます。同28年には緊急を要する生存者への叙勲が再開されますが、栄典制度の法制化は叶わぬままとなりました。国家再建の功労を顕彰する必要が高まるなか、政府は同38年に閣議決定で生存者叙勲を復活させ、制度存続の危機を回避します。翌年には民主国家を反映した「叙勲基準」が閣議決定され、戦後運用の道筋が付けられました。そして平成15（2003）年、前年の閣議決定により等級廃止や桐花章の分離、6種への整理を伴う新しい叙勲制度が開始され、今日に至っています。